「カステラ」は危ない食べ物?

 このプロジェクトのきっかけは、介護福祉士の国家試験のある問題でした。「次の食品の内、嚥下障害のある高齢者にとって最も注意が必要なものを一つ選びなさい。」という設問の答え。それは、長崎を代表する名物「カステラ」だったのです。長崎大学病院摂食嚥下リハビリテーションセンターに務める三串伸哉さんは、それを知って驚きました。「まさか自分の暮らすまちの名物が、国家試験レベルで高齢者が注意すべき食べ物として名指しされるなんて」。
 仕事を通して摂食嚥下障害の患者さんと日々向き合う中で、この障害は地域として取り組むべきと感じる機会が多くありました。摂食嚥下障害を広く認知してもらい、誤嚥性肺炎や窒息になる患者さんを減らしたい。そのシンボルとして子供から年配の方までみんなが一緒に安心して食べられるカステラを開発したい。そんな気持ちから「ゆめカステラプロジェクト」が始動することになりました。

 

幅広い分野のメンバーが力を合わせて活躍

 最初は三串さんが声をかけた医療関係者のみで会議を行っていましたが、SNSやメンバー伝いにプロジェクトを知り共感するさまざまなメンバーが加入。カステラの職人やパティシエ、教職員、学生、デザイナー、当事者である患者さんも加わりました。
 定期的に行われる会議では、摂食嚥下障害について最初に三串さんをはじめとする専門家からレクチャーが行われます。メンバーの一人ひとりの嚥下に対する理解を深めながら、それを広めていく活動に力を入れています。
 


〈摂食嚥下障害とは〉

 食物を認知(どのような食物か、どうやって食べるかなどを判断)、咀嚼(噛んで飲み込み易い形にする)、嚥下(ゴクンとのみこみ、食物をのどから食道へ送り込む)する一連の動きに問題があると「摂食嚥下障害」とされる。摂食嚥下障害により「誤嚥(食物などが気管に入ること)」が生じます。
 摂食嚥下障害は脳卒中を始め、神経難病、認知症などさまざまな病気が原因となり、誤嚥は高齢者の肺炎の多くを占める誤嚥性肺炎や窒息に繋がります。

安心して食べられる夢のカステラ

 大きな活動の目的は、摂食嚥下障害への理解や対処法を地域に広めること。そのために、プロジェクトのきっかけとなったカステラを食べやすいものにアレンジして、新商品を開発することになりました。試行錯誤を重ねて出来上がったのが、高齢者の方でも噛まずに食べられる軟らかいカステラ「なめらかすてら」です。
 こだわったのは食感だけではありません。障害の有無に関係なく、みんなにとっておいしいカステラとしての味わいも大切にしています。プロジェクトの活動としてまず商品が完成しましたが、これで終わりではありません。カステラをさらに広め、そして摂食嚥下障害への理解を深める。そのために、これからも新しい試みにメンバー全員で協力して取り組みます。