「カステラ」は危ない食べ物?

『好きなものを食べて生きていく』

 私たちゆめカステラプロジェクトは「摂食嚥下障害」を地域の人々に啓発する活動を行い、いつまでも美味しく食べ続けられる社会を目指しています。

 「今日からあなたの食事はミキサー食です。」

数日間だけではなくて、半年、1年と続くかもしれない。原型の無いどろどろの食事。食欲を保つことが出来ますか?食事の楽しみが少ない毎日はつらいものでしょう。

そんな普通の食事が出来なくなる原因として「摂食嚥下障害」があります。食物を見た目や匂いなどで認識し、口に入れ、食べやすい形に咀嚼し、ゴクンと飲み込む。意識せずに日々何百回も行っている動作も、脳梗塞や認知症など様々な原因で上手くできなくなります。上手く飲み込めないと、食物が気管に入る「誤嚥」が起き、食物と一緒に細菌が肺に入ると誤嚥性肺炎、気管が詰まると窒息に繋がるリスクがあります。肺炎は日本人の死因の3番目であり、高齢者の肺炎の多くは誤嚥性肺炎とされています。窒息死も年間4000人を超え、今や交通事故による死者よりも多いのです。摂食嚥下障害はとても身近な問題であり、あなたやあなたの家族、そして未来のあなたにも起こり得る「自分事」の問題です。

 「誤嚥」は生活の場で起きているので、生活の場で誤嚥を減らし、肺炎や窒息を予防すべきです。しかしながら、誤嚥の原因や予防方法を知らない人々が多く、医療・介護の専門職側もより美味しい食物にこだわる意識がまだまだ高くないのが現実です。

 自分は歯科医師で摂食嚥下障害のリハビリを専門としていますが、日々の臨床の中で対応が後手になったり、マンパワーの無さに悩むことが多々有ります。もう少し早く誰かに気がついてもらえていたら・・・。ともに立ち向かう仲間が沢山いたら・・・。

そんな思いから地域全体で摂食嚥下障害への認知を向上させたいと考え、プロジェクトを長崎市内の医療介護の専門家たちと立ち上げました。

 また、このプロジェクトのきっかけは、介護福祉士の国家試験のある問題でした。「次の食品の内、嚥下障害のある高齢者にとって最も注意が必要なものを一つ選びなさい。」という設問の答え。それは、長崎を代表する名物「カステラ」だったのです。長崎大学病院摂食嚥下リハビリテーションセンターに務める三串伸哉さんは、それを知って驚きました。「まさか自分の暮らすまちの名物が、国家試験レベルで高齢者が注意すべき食べ物として名指しされるなんて」。
 

 

幅広い分野のメンバーが力を合わせて活躍

 最初は三串さんが声をかけた医療関係者のみで会議を行っていましたが、SNSやメンバー伝いにプロジェクトを知り共感するさまざまなメンバーが加入。カステラの職人やパティシエ、教職員、学生、デザイナー、当事者である患者さんも加わりました。
 定期的に行われる会議では、摂食嚥下障害について最初に三串さんをはじめとする専門家からレクチャーが行われます。メンバーの一人ひとりの嚥下に対する理解を深めながら、それを広めていく活動に力を入れています。
 


〈摂食嚥下障害とは〉

 食物を認知(どのような食物か、どうやって食べるかなどを判断)、咀嚼(噛んで飲み込み易い形にする)、嚥下(ゴクンとのみこみ、食物をのどから食道へ送り込む)する一連の動きに問題があると「摂食嚥下障害」とされる。摂食嚥下障害により「誤嚥(食物などが気管に入ること)」が生じます。
 摂食嚥下障害は脳卒中を始め、神経難病、認知症などさまざまな病気が原因となり、誤嚥は高齢者の肺炎の多くを占める誤嚥性肺炎や窒息に繋がります。

安心して食べられる夢のカステラ

 大きな活動の目的は、摂食嚥下障害への理解や対処法を地域に広めること。そのために、プロジェクトのきっかけとなったカステラを食べやすいものにアレンジして、新商品を開発することになりました。試行錯誤を重ねて出来上がったのが、高齢者の方でも噛まずに食べられる軟らかいカステラ「なめらかすてら」です。
 こだわったのは食感だけではありません。障害の有無に関係なく、みんなにとっておいしいカステラとしての味わいも大切にしています。プロジェクトの活動としてまず商品が完成しましたが、これで終わりではありません。カステラをさらに広め、そして摂食嚥下障害への理解を深める。そのために、これからも新しい試みにメンバー全員で協力して取り組みます。